めちゃくちゃ笑う、というのは、
「息が吸えなくなるくらい笑って、
いい加減苦しくなって息を吸いたいのだが、
それでも笑ってしまい、あわや酸欠状態」
という状態のことを示すが、
そういう経験を、10年くらいさかのぼって思い出してみようと思う。
大学1年の5月、
1ヶ月くらいしか付き合っていなかった女性にふられた僕は、
余裕をかまして新歓イベントをさぼっていたの遅れを取り戻そうと
某イベントサークルの新歓コンパに参加した。
雑居ビルの4階だか5階で開催されたそのコンパにおいて
僕が「女って何?」みたいなことを
サークルの2年生くらいの女の人に言いまくっていて
うざがられていたその横で、連れのM君がめちゃくちゃ飲まされていた。
M君は同じクラスの友人である。僕が入学式で一番最初に話しかけた人だった。
控えめな性格で、金曜5限までしっかりと出席するまじめなやつだった。
今回のコンパに参加したのは、僕が半ば強引に誘ったからだった。
お酒を飲んだのは今回が初めてのようだったが、
彼は九州出身であり、ただそれだけの理由でめちゃくちゃ飲まされていた。
僕は岐阜県出身で良かったと胸を撫で下ろしつつ
相変わらず「女って何?」と言いまくっていた。
そんな状態だったので当然収穫などあるはずも無く、そのまま飲み会が終了した。
エレベーターで下におりながら、知り合った自称イカ京(イカ臭い京大生)
の下宿で麻雀をしようということになり、外でたむろしていたら、M君が出てきた。
相当酔っぱらっていたと見える彼は、かなり気持ち悪そうだった。
彼は明らかにトイレを探していたが、ビルの1階にはトイレが無かった。
彼は焦っていた。胃のあたりをさすっている。あまり余裕が無いらしい。
彼は、みのもんたがクイズミリオネアの75万円の問題あたりで
解答者の「ファイナルアンサー」に続いて答えを言うまでくらいの間思考を巡らしたのち、
元来た道を引き返していった。どうやらエレベーターで上に向かうことにしたらしい。
一旦は見えなくなったM君だったが、再び引き返してきた。
彼はさっきよりも焦っているようだった。
よく見たら、両手を器型に組んでいる。
ゲロだ。
M君はエレベーターに乗る直前、どうしてもゲロを吐きたくなった。
心優しい彼は、店先を汚してはいけないと思い、とっさに手でゲロを受け止めたのだった。
ビルの外に出る途中、ちょっとつまづいて、
あやうく座り込んでいた女の子にかけそうになっていた。
もしくはちょっとかかっていたかもしれない。
ドリームシャワーよりもタチが悪い。
酔いつぶれた新入生の介抱が役目のはずの2年生も、さすがに彼には近づけなかった。
僕は爆笑しながらも、彼がそのゲロをどう処理するのか、しっかり見届けようとしていた。
彼は迷いに迷ったあげく、道ばたの新緑まぶしい桜の木にかけた。
彼はあんな状況でも合理的思考を忘れていなかった。
彼のゲロを受け止めた桜の木は、京都で最も早く花を咲かせる大樹となり、その名を轟かせたという。