8月末のある日の夜、品川で打ち合わせを終えた後、
終電間際の新幹線に乗るべく、乗り場に向った。
切符を勝手改札をくぐると、駅構内から何やらアナウンスが聞こえてきた。
「ただいま大雨によりダイヤが大幅に乱れております」
電光掲示板を見てみる。

乱れ過ぎだろ。
とはいえもう改札をくぐってしまったので、
意を決して乗り込むと、電車は普通に出発した。
21時過ぎ、小田原付近を通過した頃、突然電車がストップ。
その後の乗務員さんの一言で、社内は異様な空気に包まれる。
「熱海付近で大雨が発生し、電車が通行不可能となっています。
雨がやむまで電車は動きません」
電車は小田原駅に到着しているものの、
車線が駅と接していないので、駅に降りることは不可能である。
つまりここは、新幹線という名の完全な密室状態である。
しばらく待っていれば動き出すだろうと高をくくっていたものの、
1時間経っても全く動く気配がない。
次第にいらだちを見せる乗客達。
せっかくなので観察してみることにした。
車内を捜索してみると、基本的に乗客は憔悴している。

いつ動き出すかも分からない新幹線に閉じ込められ、
外にも出られないのだから仕方ない。
中には、連結部分に陣取って読書をする強心臓な若者もいる。

あるいは、3列シートを全て陣取り、
ふて寝するほろ酔いサラリーマンの姿もあった。

もはやここは199X年に核の炎に包まれた
地球のごとき無法地帯である。
グリーン車に行ってみると、人が座りまくっている。
おそらく誰もグリーン席のチケットなどもっていないだろう。
そもそも、電車が遅れまくっているので、
自由席とか指定席の区別も良く分からない状態になっている。
このグリーン車に乗っている乗客は、
そんなどさくさにまぎれてグリーン席を確保した
クレバーな人たちなのだ。
早速、開いているグリーン席を発見したので、
僕も座ってみることにした。

グリーン席専用の雑誌「WEDGE」を読んでいると、
心無しか気分も落ち着いてきた。
23時半、乗務員からの放送があり、
隣の電車に橋を渡して、駅に出られるようにしたとのこと。
橋のある後方の10号車に殺到する乗客達。
10号車に行ってみると、本当に橋が架かっている。

新幹線の間に架けられた橋を渡る機会があるなんて、
夢にも思わなかった。
感慨深くわたると、小田原駅のホームに着いた。
シャバに出たヤクザの気分だ。
が、特にすることも無いので、すぐに引き返す。
その後、0時過ぎに電車がようやく発車。
京都には2時についた。
乗務員にクレームをつけまくる若手カップルを横目に見ながら、
おもむろに特急券の払い戻しを受け、
タクシーで家に帰った。
