2009年05月31日
感じるマンゴー誕生秘話(3)
〜前回までのあらすじ〜
「感じるマンゴー」開発グループの4人は、
名称採用を社長会議で直訴するという
とんでもない暴挙に出た。
そしていま、伝説の扉が開こうとしている……
-----------------------------------------------------------
(アサヒ飲料(株)商品企画部
果汁ジュース企画担当 グループリーダー 山田啓介)
「……以上で、コードネーム09XSの企画状況のご報告を終わります」
(アサヒ飲料(株)商品企画部課長(以下、課))
「えー、では何か質問は……」
(アサヒ飲料(株)商品企画部部長(以下、部))
「山田君、これはいったいどういうことだ!」
山「どういうことかと言いますと」
部「商品名に決まってるじゃないか!
一体、どういうつもりなんだ!」
山「……」
部「話にならん、企画はボツだ、プロジェクトは解散!」
(アサヒ飲料(株)社長 (以下、社))
「どういうことだ? 状況が飲み込めないのだが」
部「社長、こいつは、山田は反逆者ですよ」
社「山田君、どういうことなのか、説明してくれないか」
部「こいつは、私の命令を無視して、商品名を勝手に……」
社「厳樫君、僕は山田君に聞いているんだ」
社長が部長を見据えていうと、
部長は蛇に睨まれたカエルのように押し黙った。
張りつめた空気の中で、山田は静かに口を開き、
『感じるマンゴー』という商品名に関する
これまでのいきさつを話した。
社「……なるほど、そういうことか」
部「社長、『感じるマンゴー』はあまりにも危険です。
今すぐプロジェクトの中止を」
社「日本は、変わらなければならない」
部「え?」
社「今、この国の国民はどういう人生を送っているか、
知っているか? テレビとパソコンの前に座り、
そこに流れてくる情報や娯楽を次々と眺めているだけだ。
死ぬまでの間、そうやってただ、漫然と生きている。
食事も入浴も、仕事も恋愛も、すべて、こなすだけだ。
無自覚に、無為に時間を費やし、そのくせ、人生は短い、と嘆く」
部「社長、一体何をおっしゃっているのです」
社「国民は自ら考えなければならない。
考えて、選択しなければならない。
『感じるマンゴー』が、下ネタなのかそうでないのか、
それは、国民が決めるべきことだ」
山「社長……!」
社「どうだい、厳樫君」
部「くっ……」
そのとき、会議室から突然拍手が巻き起こった。
プロジェクトチームの田中が立ち上がり、
顔を紅潮させながら手を叩いている。
隣に座っていた宮本と小林は、驚いた顔で
田中を見つめていたが、その後、意を決したように立ち上がり、
田中とともに、拍手を送った。
それにつられるようにして、会場にいる役員も
立ち上がり、拍手を送る。
さながらスタンディングオベーションのようだった。
やがて、拍手の中に人の声が混ざりはじめた。
「マンゴー! マンゴー! マンゴー!」
部長は、あぜんとした顔で事態を眺めていたが、
誰にも見つからないように、熱気に包まれた会議室を後にした。
プロジェクトチームが、課長が、社長が、
全ての社員が団結した瞬間だった。
(おわり)
※一部、伊坂幸太郎「魔王」より抜粋。
- Permalink
- by
- at 17:03
- in ひとりごと
- Trackbacks (0)












