週末、彼女を連れて実家に帰り、
祖父のクラウンを借りて、
恵那の主要な観光地をひとしきり回った。
今まで一度も乗ったことが無かった
恵那峡遊覧船などに乗りながら、
地元の観光資源を改めて再認識した後、
最終目的地である阿木側ダムに到着した。
一旦車を駐車場に入れて、ウロウロした後、
ダムの別の場所に移動するため、再び車に乗り込んだ。
勢い良くバックすると、
「ベコ」
という鈍い音と感触が左前方から伝わってきた。
見ると、隣の車のフロントドアに、
クラウンのバンパーが思いっきりめり込んでいる。
イメージとしては、こんな感じでめり込んでいる。

外に出てみると、
見事にベッコリと隣の車のドアがへこんでいた。
それとは対照的に、クラウンのバンパーは
傷こそついているもののヘコミ一つない。
改めてトヨタ高級車の頑強さに感銘を受けつつ、
呆然と立ち尽くす。
このまま無言で立ち去り、両親および祖父母には
「壁にこすっちゃいました」などと適当に嘘をつこうかと
考えたが、クラウンドライバーの端くれとして
そんなみっともない真似は出来ないので、
きちんとお詫びをすることにする。
とはいえ、色々と大人の事情もあるだろうから、
ひとまず家に引き返し、両親および祖父母と
事態の収拾を相談することにする。
相手に事態を伝えるべく、紙に連絡先を書いて、
相手の車のドアの部分に絆創膏で貼り、立ち去る。


ヘコミひとつないクラウン
家に到着した後、親父を呼び出して事情を説明。
「あのー、すいません、事故ってしまいました」
親父、困る。そりゃそうだ。
「とりあえずじいちゃんに相談しないとなあ」
といい、祖父の部屋に向かうことに。
祖父は、クラウンに乗り続けて何十年という
生粋のクラウンマニアである。
数年前、クラウンが大幅なモデルチェンジをして、
若者向けの新しいデザインになった際、
そのデザインを嫌って、モデルチェンジ前の
最終モデルをわざわざ買い、それから大事に乗り続けている
クラウンマニアである。
そして祖父は、クラウンマニアであると同時に
神風特攻隊に所属経験のある、骨太軍人でもある。
クラウンのオーディオデッキで軍歌を聞くほどの
生粋の軍人でもある。
どんな鉄拳制裁が待ち構えているかとビビりながら、
祖父の部屋に向い、
「じいちゃんごめん、車ぶつけてしまった」と謝る。
祖父、一瞬顔が曇ったものの、
おだやかな表情で「そうか」と一言。
おもむろに外に出て車を眺めた後、
「怪我が無くてよかった」とだけいった。
その後、とりあえず警察に電話しないと
ということで、警察に電話したところ、
とりあえず警察署まで来てくださいというので、出頭する。
事故ったクラウンを親父に運転してもらいながら
警察に向かう姿は、さながら、婦女暴行事件を起こし、
父親の権力で事態をもみ消すために
警察所長の家に連れられる政治家のバカ息子のごとき気分で
なかなか情けない。
警察署に到着し、事情説明をする。

警察の調べによると、
相手の車の持ち主はダムの売店で働くおばちゃんらしい。
車の見た目からある程度予測はしていたが、
危なそうな人でなくて良かった。
親父もとりあえず一安心である。
その後、警察と一緒に事故現場に戻る。
パトカーに先導されるのかと思ったら、
パトカーは僕らの車の2、3台後ろからこっそりとついてきた。
警官の配慮なのかもしれない。

現場に到着するパトカー
事故現場に戻ると、一人のおばちゃんが警察に連れられてきた。
売店一筋40年といわんばかりの素朴なおばちゃんである。
「この度は申し訳ありませんでした」と謝罪すると、
「いえいえ、怪我が無くてよかったです」と
うちのじいちゃんと同じことをおっしゃる。
黙って逃げないでよかったとつくづく思った。
その後、連絡先を交換し合い、
挨拶をして別れる。
親父、車の中で一言、
「お前、事態が収まったら今度阿木側ダム行って
売店に行ってこい」
こういうのは後味が悪くならないようにすることが
大事なのだそうだ。
幸い、車の保険が僕が運転者であるときにも
適用されるようだったので、相手の車の保障は
保険会社が負担してくれるらしい。
そのかわり、クラウンの保険料が次回以降
上昇することになるらしい。
じいちゃんごめん。
どこかの誰かが、
車のような超危ない乗り物が、
免許さえとれば誰でも運転できるような社会は異常だ
みたいなことを言っていた。
いつになるか分からないが、またおばちゃんに
会いにいこうと思う。