人間腸詰

  • 著者: 夢野久作
  • 印象: 2 (1-3)
  • 読んだ時期: 2021年10月

 

ドグラ・マグラで有名な夢野氏の短編小説集。本のタイトルは小説中の短編からとっている。

 

とにかく異常な人間なり人間心理を描いた短編集であり、読むのに必要な精神的カロリーが大変高い。あるきっかけで渡米した男が人間をソーセージにする巨大挽き機に書けられそうになる「人間腸詰」、電車轢死自殺を試みた女性を引き止めずに死体から物を漁って特ダネを書いた新聞記者が少しずつ気を狂わせる「空を飛ぶパラソル」、片足を病気で失った男がホルマリン漬けの片足にいざなわれて猟奇的な殺人をする「一足お先に」など、とにかく重い。

 

情景を精密に描写することで人間の異常真理を浮き立たせるような表現が多く、スティーブン・キングを彷彿とさせる。個人的には「空を飛ぶパラソル」の中で、田んぼの真ん中にぽつんと経っている、ほぼ白鯉になっているのに上の赤鯉と青鯉から滴り落ちるインクをダラダラ浴びて血まみれになっている鯉のぼりの描写に狂気を感じた。

 

最後に収録されている「押絵の奇蹟」は、母親の不倫により生まれたとされるある女性が、自分の生まれに因縁のあるアル男性に対する思い、およびその因縁を、その男にあてた手紙の中で告白するという内容であり、比較的正当派の小説で、江戸川乱歩も激賞した作品らしいのだが、ここに至る各種短編を読んだ後に本作品を読むと、これって結局この女性が作り出した妄想なのでは? という疑問がずっと消えない。

 

最終的に精神科の独房の中で壁に向かって話しかけているだけの、「オヤァ・・誰もいない・・・さっきから一人で喋っていたのかな・・・ココを出してくれ・・・出してくれッ・・・出して・・・くれエエエーーーーーーッ・・・・」みたいな「狂人落ち」が待っているのではないかとドキドキしながら読み進めざるをえなかった。