麒麟の翼

  • 著者: 東野圭吾
  • 印象: 2 (1-3)
  • 読んだ時期: 2022年2月

 

日本橋で起きた一人の男の殺人事件を、東野小説の準レギュラー的な存在である加賀が解決に導く小説。

 

容疑者の八木は派遣社員として働いていた男で、過去に派遣先のメーカーで怪我をしたにも関わらず労災認定されない、いわゆる労災隠しに遭い、その怪我が影響して仕事に就くことができなくなり、そのメーカーの製造本部長であった青柳に労災隠しをちらつかせながら復職を迫り、話がもつれて青柳を殺害するに至った、というのが事件の当初のストーリーである。

 

しかしながら、八木は事件直後に公園に身を隠しており、警察に見つかった際に道路に飛び出して重症を負い、その後死亡する。そのため、八木が真犯人であるかどうかの確証が無くなってしまう。

 

といった状況を出発点として、練馬署の刑事である加賀と、その親戚で本庁捜査一課の松宮が、事件を調べていく。

 

加賀は通い慣れた人形町をくまなく歩いて、八木や青柳の形跡を断片的に拾っていく。メガネケースとか和紙とか、一見事件と無関係に見える、どうでもよさそうな情報を丹念に吟味することで、最終的に思いもよらない事件の真相にたどり着く。半分読み進めても、なんでこのタイトルなのか、というのが全くわからない。

 

ネタバレすると八木は犯人ではないのだが、八木が殺人と疑われるきっかけとなった行動を起こした理由が若干不明確で、読み終えてみると、複雑なプロットのしわ寄せがココにきているような感じもする。

 

容疑者の八木には同棲して妊娠3ヶ月の彼女がおり、生きる希望を失いかける。被害者である青柳の家族も、一家の大黒柱を失うとともに、事件発生からしばらくすると、被害者が労災隠しの黒幕であり、殺されたのは自業自得であるという風潮が報道によって形成され、世間から冷たい視線を投げかけられるようになる。辛い描写だが、最後にこれらの家族が事件の真相を受け入れて再生していく姿まで描いている点で救いがある。

 

小説の中で、加賀がある女性の看護師に説教される場面がある。加賀は自分の父親が死ぬ時、臨終に立ち会わず、それは父親との約束でそうしていたのだが、そんな加賀に対して看護師は、「生きている間の約束なんて意味がない、人は自分が死ぬときになって初めてプライドを脱ぎ捨て、本当の願いに向き合うことになる。あなたは父親の本当の願いと向き合うことを放棄したのだ」といった感じの言葉を投げかけるのだが、確かに、僕の祖父が昨年に亡くなったときにも、死ぬ間際にそんな風になっていたようにも感じる。

 

ちなみに上記看護師の女性はなんとなく加賀のことが気になっており、加賀との恋愛サイドストーリー的な展開も小説の中で繰り広げられるのかと思っていたが、そういうことは一切なくて少し残念だった。