読書感想: 64(ロクヨン)
- 著者: 横井秀夫
- 読んだ感じ: 1.5 (1-3)
- 読んだ時期: 2025年5月
三上義信はD県警の元刑事で、現在は広報官としてマスコミ対応を仕事にしている。県警の花形は刑事であり、広報は記者に捜査情報を垂れ流す存在として、刑事から嫌われている。
三上には高校一年生になる一人娘のあゆみがいるのだが、現在は家出して所在が知れていない。三上の妻は超美人で、三上は鬼瓦とあだ名されるほどのブサイクなのだが、娘のあゆみは不幸にも三上に似てしまい、小さい頃から容姿にコンプレックスがあり、思春期になって我慢できなくなり、突然姿を消してしまった。三上は広報部長である赤田に頼み、特別に娘の家出捜査を全国的に実施する便宜を図ってもらっている。
三上は自分が広報の仕事をしていることに納得をしていない。人事部の作為で刑事から広報に飛ばされたと感じており、刑事への復職に未練を残している。一方で赤田への借りもある。そんな感じの心境もありながら、仕事は一生懸命やっているのだが、いかんせん中途半端なために、刑事からも広報部の生え抜きの部下からも完全な信頼を得られていない。
ロクヨンとは、昭和64年に発生した幼女誘拐殺人事件のD県警内における隠語であり、誘拐犯に身代金を奪われた挙げ句、幼女は殺害されており、犯人は捕まっていないという、D県警最大のタブーである。ロクヨンの時効が1年後に迫ったある日、「幸田メモ」という、ロクヨンの事件に関わりのあるメモの噂が県警内に広まる。内容不明だが事件に関する重要な情報であるらしいそのメモを巡って、三上は広報官として情報を集めている内に、幸田メモが過去の捜査において発生した重大なミスを告発する文章であることを知り、被害者、新聞記者、刑事部の間で駆けずり回ることになる。
基本的には、踊る大捜査線のように、昇進や個人のプライドなどを巡る警察内の内輪のいざこざがベースになっており、話としては面白いが内輪揉めの範疇から出ておらず感情移入があまりできない。また、内輪揉めの当事者間でのみ伝わる微妙な言葉使いとか言い回しを通して個人の心理描写がなされているので、話を理解するためには相当な心理読解力が必要であり、なんでこんな内輪もめの心理を一生懸命理解せなあかんねん という気持ちになる。
話の所々に、三上の高校剣道部の同期である二渡という男が登場し、三上とことあるごとに反目しあい、最終的に何となく和解するのだが、そのいざこざの原因は、高校時代の剣道の試合で、レギュラーだった三上が、試合後に後輩が準備しているはずのおしぼりが手元になく、後輩が誰も近くになかったので、万年補欠だった二渡におしぼりを要求した という大変しょうもない出来事である。物語の中で三上は、幾多の修羅場を経験しながら、真の広報官として成長していくのだが、その根底に剣道おしぼり事件が横たわっているために、根本的な器の小ささが払拭されることはなかった。