読書感想: インドクリスタル
- 著者: 篠田節子
- 個人的な印象: 2.5 (1-3)
- 読んだ時期: 2025年10月
山峡ドルジェという日本の零細鉱物会社は、惑星探査用の高性能水晶振動子を製品として取り扱っているが、この製品には超高純度の水晶が必要になる。人工水晶では品質が不十分で、天然水晶の中でも極めて結晶性の高いものが必要であり、社長である藤岡は、世界中の鉱山を飛び回ってその水晶を探している。ひょんなことから、インドの奥地にある村に藤岡が求める水晶の鉱山が存在することを突き止める。藤岡は、商習慣や契約の概念が全く無いインドの田舎における、極めて非西洋的な (西洋の視点でいえば極めて非人道的で非道理的な) 人間たちに翻弄されながら、水晶の採掘事業を推進するために命がけでインドを飛び回るといった感じの話。
現在のインドがそうなのかはよくわからないが、本書におけるインド社会においても大変混沌としている。インドは世界最大の民主主義国であり、またカースト制度も表向きは撤廃されているのだが、昔からの文化は根深く残っている。暴力が悪であることは国民全体が認知しているが、未婚の女性やアウトカースト (カースト制度の枠外にいる人間達) は人間として認知されておらず、彼らに対する暴力は見過ごされる。信用関係は個人間のみで成立し、契約や約束は何の意味もなさない。家族や友人といった信頼関係がなければ、暴力、脅し、嘘、賄賂といった非信頼の要素を駆使して構築するしかない。気を抜けばすぐに裏切られ、邪魔だと判断すれば平気で殺される。
藤岡はインドの奥地で何回も死にかけるのだが、もはや彼は仕事のためではなく、天然水晶のいわれのない美しさに取り憑かれていると言っても過言ではない。
ロサという若い女が登場し、藤岡を助けたり裏切ったりするのだが、ロサの人生は筆舌し難いほどに苦難に満ちており、インドで生きる未婚女性の壮絶さが集約されている。
10月にインドに行く予定があるのだが、行くのが怖くもなり楽しみにもなった。