• 著者: 真藤順丈
  • 個人的な印象: 2.5 (1-3)
  • 読んだ時期: 2025年10月

 

母親の胎児の中で死んでしまった兄か弟を、頭の中に入れたまま生まれた人間の話。

 

少年は生まれたときから頭が異様に膨れて奇形であり、そのいびつな頭のために母親は出産時の出血がひどく死んでしまう。また父親や祖母も自分を化物とみなして、家の蔵に閉じ込められながら誰の愛情も受けずに育つ。自分を引き取ると申し出た徳の高いインド人医師は病死し、厄介な息子の引き取り先の当てがなくなった父親は狂死する。自分の周りで人が死ぬのは自分の頭が死体の入った墓であるからだと少年は認識し、「頭の中の死体をどうやって取り出すか」を人生の命題にして生きる。少年には名前がなく (誰も彼に名前をつけてくれなかった)、そのうち墓頭 (ボズ) という名前で呼ばれるようになる。

 

ボズが少年時代を過ごした施設(白鳥塾)が実は過激派共産党員の隠れ蓑になっており、修学旅行と称して毛沢東政権時代の香港を訪問し、子供を使ったテロ行為に巻き込まれて殺されかけるという凄まじい少年時代を過ごす。白鳥塾で出会った色々な人物がボズのその後の人生に深く関わってくるが、ほとんどの人間は殺される。最終的にボズは、彼の頭を生死を超越した象徴と見なした天才的な狂人であるヒョウゴに見出され、行動をともにしながら、ヒョウゴが事業として行っている犯罪的な行為に間接的に加担しながら生きる。

 

戦後間もなくの混沌としたアジアが話の舞台になっており、毛沢東時代の中国やポルポト時代のカンボジアにおけるとんでもなく凄惨な拷問、粛清、大量殺戮の描写が多数出てくる。ボズと同じ施設で育ったヤナタカという男は、捉えられて数ヶ月飢餓状態にされた後、料理を出されてむしゃぶりついて食べたら、実はその料理は自分の子供だったという描写があり、読んでいられない。また、白鳥塾の塾長で革命派のグル的な人物であるホウヤはヒョウゴによって捉えられた後、身体を拘束されて舌を抜かれて自殺できないようになった後、東京を一望できる墓穴に閉じ込められて、強制的に栄養を流し込まれながら死ぬこともできず生きるというとんでもない目に遭っており、読んでいられない。また、ヒョウゴによって拷問を受けたある軍人は、自分の妻と家族を眼の前で強姦、殺戮された後、その死体がヒーターに囲まれて捨て置かれ、人間ではないドロドロしたものに変わり果てるまでの様を見届けさせられるという拷問に遭っており、本当に読んでいられない。史実に基づいた描写であるとしたら本当にとんでもないと思った。

 

上記のようにとにかく内容がテスカトリポカを超えて衝撃的なのだが、最終的にボズは、白鳥塾で出会った1人の人間によって、自分と関わりを持った人間は必ず死ぬ、という呪縛から開放されることになり、一応救いのある結末になっている。

 

一つ気になったのは言語であり、日本人、カンボジア人、中国人などが何不自由無く会話を交わしており、何語で喋っているのかというのが大変気になった。